「当たり前」にすることで社会を動かす ~環境省?浜島直子さんインタビュー~
【たふえね×卒業生】
世界にはばたく卒業生
東京外大での学びを起点に、環境省で20年以上にわたり環境政策の最前線を歩んできた浜島直子さん(外国語学部英語専攻卒)。米国への留学経験や国際交渉の現場で培った視点をもとに、自治体の脱炭素を「当たり前」にしていく取り組みについて伺いました。政策立案の裏側で直面した葛藤や、国益と地球益の間で道を切り開く思考、言葉と文化への感受性を生かした主流化の工夫、そして環境問題に向き合う若い世代が無力感を希望へと転じるための視座について語っていただきました。
浜島直子さんのプロフィール
環境省職員。2003年に東京外国語大学 外国語学部 英語科 卒業後、環境省に入省。以降20年以上在籍し、概ね2年ごとのローテーションで多様な政策領域を担当。自治体の脱炭素支援(現任務で最長通算約5年)、公害被害(例:水俣、アスベスト、福島の除染)対応、炭素税(入省2?3年目に税収使途を担当)、国際交渉(生物多様性2030目標の合意形成に関与)。環境省の女性として初の副大臣秘書官を務める。米国コーネル大学公共政策大学院に国費留学し、環境経済学を中心に学ぶ。千葉商科大学へ出向、東京外大でも非常勤講師を務める。国費留学後も政策と学術の橋渡しに注力。論文執筆を継続し、現在は、業務の傍ら、名古屋大学で博士号取得に向けて研究を進めている。
インタビュアー:たふえね
- 田中バット アイシャ真李(国際社会学部南アジア地域/ウルドゥー語 2年)
- 吉成 雫(国際社会学部オセアニア地域/ 1年)
- 鈴木 真悠子(国際社会学部中央ヨーロッパ地域/ポーランド語 3年)
- 龍 歩未(国際社会学部アフリカ地域/2年)
- 鈴木 みれい(言語文化学部東南アジア第2地域/ベトナム語 2年)
- 宮下 希彩(国際社会学部 東南アジア第2地域/タイ語 2年)
- 渋谷(国際社会学部 西南ヨーロッパ地域/フランス語 4年)
────東京外大での学生生活を通じて、どのような経験や学びがありましたか。また、それらが環境省への進路選択にどのようにつながったのでしょうか。環境省を志望された理由についても、ぜひお聞せいただけると嬉しいです。
東京外大に進学したきっかけは、漠然と英語が好きだったというだけで、将来のことは何も考えていませんでした。歌が好きで、「歌って生きていこうかな」と思っていたほどです。ところが入学してみると周りは帰国子女が多く、ネイティブの先生の話を物まねを交えて再現している姿を見て、「これは英語では太刀打ちできないな」と愕然としました。
そんなときに一般教養で、当時外大にいらした大沼あゆみ先生の環境経済学の授業を受けて、強い衝撃を受けました。お金の力で人を環境にとって良い行動へと動かしたり、環境分野でお金が回る仕組みをつくったりするという発想がとても新鮮で、「自分もこうした仕組みづくりができる場所に行きたい」と思うようになりました。1年生のときには環境省を目指すことを決めていました。学生時代は、英語を使った活動を行うサークルであるESSにも所属していました。?
────環境省での現在のお仕事内容と、これまでのキャリアについて教えてください。?
2003年に入省してから20年以上が経ち、これまでおおむね2年ごとに部署を異動してきました。現在は自治体の脱炭素支援を担当しており、この業務がキャリアの中では最も長く、通算で5年ほど携わっています。自治体にとって脱炭素はどうしても後回しにされがちな分野なので、何とか「当たり前の業務」として根付かせられないかという思いで、自治体の政策づくりを支援しています。
最近では、昨年7月に着任した直後からメガソーラー問題が大きく取り上げられ、年末までその対応に追われました。地域との調和が十分に図られないまま進む再エネ開発に対して、どう向き合い、どのように是正していくのかが大きな課題となりました。そうした状況を受け、関係省庁と議論を重ね、年末には官邸で対策パッケージを取りまとめるところまでこぎつけました。地域と再エネが共生できる仕組みづくりに向けて、引き続き取り組んでいるところです。
────入省してから最もやりがいを感じた仕事と、壁にぶつかった経験について教えてください。?
壁を感じた出来事として、入省2?3年目に環境税(炭素税)を担当したときのことが印象に残っています。上司から「6000億円の税収が入るとして、その使い道を考えてほしい」と言われ、必死に案を作りました。上司とも議論を重ね、結果的にできた案は、半分を社会保障に、残りの半分を森林保全と既存補助金の拡充にそれぞれ充てるという内容でした。
ところが、その案は環境NGOの方々からも、与党の先生方からも「何をしたいのか全く伝わらない」と厳しい評価を受けました。誰にでも良い顔をしようとすると、結局は誰の心にも響かないのかもしれないと痛感した瞬間でした。
ただ、その後に局長から「あなたが考える環境税の必要性を、パンフレットという形でまとめてみなさい」と言われ、子ども向けの手のひらサイズのパンフレットを作成しました。とある学会で配布したところ、経済学の先生方から「環境税の本質をよく捉えている」と評価していただきました。そのほかにも皆で幅広い関係者と議論を重ね、翌年には環境税導入への賛成者が増えました。自分の言葉で伝えることの大切さを強く実感した経験です。?
────米国への国費留学ではどのようなことを学ばれ、その経験が現在のお仕事にどのような影響を与えているのでしょうか。??
入省7年目に、コーネル大学の公共政策大学院(Cornell Institute for Public Affairs、略称CIPA)で学ぶ機会を得ました。留学の目的は、経済学、特に環境経済学の知識を基礎から学び直すことでした。ほとんど独学で経済を勉強してきたため、どこかで「自分は専門的な訓練を受けていない」という言い訳をしてしまう部分があり、それを克服したいという思いが強くありました。
修士論文のテーマは国際炭素税です。日本で炭素税の導入が難しい理由の一つである国際競争力への影響をどう解決するかを考え、「いっそ全世界で導入すればよいのではないか」という発想のもと、180カ国のデータを用いてシミュレーションを行いました。
留学を経て、学者の先生方との議論が格段にしやすくなり、政策づくりにアカデミアの知見を取り入れることを積極的に考えられるようになりました。論文を読むことも苦ではなくなり、現在は名古屋大学で博士号の取得を目指して研究を続けています。
────霞が関での仕事を通じて、考え方や価値観にどのような変化がありましたか。?
私はもともとエコマインドの強いタイプではなかったからこそ、「お金の力で人の行動を変える」という環境経済学の考え方に強く惹かれました。企業や自治体の方と話していると、「環境問題だけでは動けない。環境以外のメリットがないと取り組めない」と熱心におっしゃることがありますが、私にとってはそれはごく自然なことです。こうした価値観は仕事を通じて徐々に強化されてきました。価値観の変化という意味では、東京外大や千葉商科大学での講義を通じて学生さんたちから刺激を受けたことも多々あります。
環境省は霞が関の中で唯一、地球益を正面から考えることが許されている省庁だと感じています。国際交渉の場では、国益と地球益の間で葛藤する場面もありますが、地球益を優先することが国益にもつながると思っています。そのうえで、企業や自治体の方々にも取り組みやすい形で一緒に歩んでいただけるように、また、脱炭素が「当たり前」の世界になるように働きかけていくことを目指しています。
────環境問題の当たり前化を進める中で、東京外大での学びがどのように活かされていますか。?
東京外大の学生は、一つひとつの言葉の意味や、その背景にある文化を丁寧に扱う力があります。この姿勢は、環境省での仕事にも大いに役立っています。
例えば、「生物多様性の主流化」は、日本語だけでは少しイメージしづらいのですが、海外では 「mainstreaming biodiversity」として広く理解されています。日本の方には「生物多様性を“当たり前化” する取り組みです」と説明すると、すっと納得していただけます。
また、「生物多様性」という言葉自体も、英語の「diversity」が持つ「幅がある」「多様である」というニュアンスに対し、日本語の「多様性」はどうしても「数が多い」というイメージが強く、「何種類あればいいのか」という議論に寄ってしまいがちです。企業の方には「自然資本」、つまり水、木、土といった自然を構成する要素そのものの質と量の話だと説明すると、理解が深まります。
言葉を丁寧に扱い、相手と共通の理解をつくりながら物事を進めていくことは、環境政策においても非常に重要だと感じています。?
────もし今、東京外大1年生に戻れるとしたら、どんな学び方をしますか。?
もっと本を読むと思います。小説は好きでよく読んでいたのですが、環境問題に関する本はほとんど手に取っていませんでした。大学教員になり、学生に教える立場になってから必要に迫られて多くの本を読むようになり、「読むべき本がこんなにあったのか」と気づいて恥ずかしくなりました。もっと早く知っていれば、政策づくりにもより貢献できたかもしれないと感じています。
情報は、わらしべ長者のように活用することが大切です。本を1冊読むと、引用文献から次に読むべき本が芋づる式に見つかっていきます。本から得たことを人に話し、相手から別の情報を得ることもできます。その得た情報を用いて、更に知識を拡げることもできます。東京外大生には、この“わらしべ長者力”をグローバルに発揮できる環境と能力があります。ぜひその力を存分に生かしてほしいと思います。
────今の大学生が環境問題とどう向き合えば、無力感に押しつぶされずにいられると思いますか。??
真剣に向き合っているからこそ無力感を覚えるのは、ごく自然なことだと思います。むしろ「自分の力だけで何とかできる」と考える方が現実的ではありません。環境問題はすでに個人の努力だけで解決できる段階を超えており、社会全体の構造に関わる問題だからです。
『チコちゃんに叱られる ちきゅうおんだんかってなに?』(文渓堂、2021年)という地球温暖化の本でも、最後に「地球温暖化は私たちの毎日の行動だけでは止まらない。世の中の仕組みそのものを変えなければならない」という趣旨が書かれています。仕組みを変える方法は一つではありません。選挙で投票する、政治家を目指す、環境省に入る、会社を興す、企業で意思決定に関わる立場になる、あるいは海外で気候変動の影響を受けている地域で活動するなど、さまざまな道があります。
まずは、そうした多様な関わり方があることを知ってほしいと思います。そして、その時が来るまでの間は、仲間と語り合いながら、自分が感じていることや考えていることを言語化しておくことが大切です。将来、社会を動かす立場になったとき、その言葉が必ずヒントになるはずです。
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